ヨーロッパ美術紀行
フライブルク・黒い森・バーゼル

 
文、写真:佐々木久見子

 今回は、私が生活をしていた町とその周辺の事でもお話しましょう。フライブルクは、スイス・フランスに近くドイツの左下にあります。ドイツ三大聖堂の一つゴシック様式のミュンスター(ステンドグラスも有名)を中心に、その名のとおり(フライ:自由、ブルク:城壁で囲まれた町)15世紀創立の大学で有名な洗練された自由な雰囲気の町です。

 町の創建は12世紀初頭にさかのぼりますが、14世紀半ばから430年余りオーストリア・ハプスブルク家領であったためか、旧市街には何かしら優美さも感じられます。

 マリー・アントワネットが、いよいよフランスに嫁ぐ時ミュンスターの前で泣いたとの逸話があったり、私もオーストリアのホテルに予約の電話を入れた時、名前を告げるとけげんそうな相手の声が住所を告げると「Oh ! Freiburg ! 」と歓迎の声になったのを今でも鮮明に覚えています。

 スイスの首都ベルンを真似て造てられたといわれるアーケード付きの建物やもともと防火と清掃用に造られた道わきの疎水が町の表情を形作っていて、今では旧市街へは車での乗り入れが禁止され、その古き良き街並みと環境政令都市の代表となっています。

 日本画の東山魁夷はドイツに留学しドイツ各地を描いていますが、フライブルクの街並みも気に入ったとみえて山の上からのミュンスターを中心にした幻想的な絵があります。

 ドイツ南西部にはSchwarzwald(黒い森)が広がり一つの文化圏を創っています。森を散策する事は、ドイツ人にとって重要でありそこから彼らの哲学・思想が生まれたとさえ云われています。森は人々に豊さを与えきましたが、80年代より酸性雨によってすっかり枯れてしまい人々に環境問題を考えさせてくれました。ドイツでのリサイクル方法が、今では各国のお手本のようになってきています。

 そんなシュヴァルツヴァルトにもまだまだ四季おりおりの楽しみがあります。春のカーニバル(この地方では"Fasnacht"<ファスナハット>)には、この地方独特の木製お面に色々な悪魔のふん装をした人々が各村々から現われて町を練り歩きます。その風貌や態度がとても"なまはげ"に似ていてびっくりしました。

 春夏はもちろん山歩きには最高ですし、秋には各ワイン産地のワイン祭りがあり、それぞれの印の入ったミニグラスを集めながら村々をワインのはしごで巡るのは幸せなものです。この地方のワインはカイザーシュツール山の物が有名ですが、白の辛口の上質なものが多くて、私もこの地方に来てからすっかりワインファンになりました。冬には点在する湖でのスケートや山ではもちろんいたる所でスキーが楽しめます。

 鳥が飛び出して時を告げる木製鳩時計はここの物が世界的にも有名です。現代音楽で有名なドナウエッシンゲンや古くよりヨーロッパ各地からの人でにぎあう温泉地のバーデンバーデンでは、私も初めてカジノに出かけました。黒い森には多くの"豊さ"があります。

 国境に近いフライブルクからはよくフランスやスイスにも出かけました。美術の話では、フランス・コルマールのウンターリンデン美術館に展示されているグリューネヴァルト作「イーゼンハイムの祭壇画」は、後の作家にも大きく影響を与えた作品です。又、スイスでは、チューリッヒのクンストハウス(美術館)やフラウミュンスター(聖母教会)のシャガールのステンドグラス、ベルンのクレーの美術館などありますが、その中でも日本では余り知られてはいないかと思いますが、私の一番のお勧めはバーゼルのKunstmuseum(美術館)です。

 ここはフライブルクから車・列車でも1時間ぐらいで行けるという気軽さもあり何度も出かけました。バーゼル学派という美術学派が存在するように特に近代絵画において、作家のこの一点というべきすばらしい作品が集められ、その作品を観賞する事によって近代絵画の流れを自然に理解出来て楽しめる所だと思います。

 以前のバーゼル美術館長、近代絵画論の権威として有名な美術史学者でもあった、ゲオルク・シュミット博士が、1955年の春、ラジオ・バーゼルから10回にわたって放送した講演を収めた本「近代絵画小史・ドーミエからシャガールまで」(近代絵画の見かた:中村柄二訳)にあるゴッホ・ゴーギャン・マティス・カンディンスキー・セザンヌ・ブラック又、その他の作品でもここにあったのかと思うようなものにはびっくりさせられます。

 誰もが知る大きな美術館以外でもさすがに本場のヨーロッパでは、すばらしい作品とめぐり合う機会も多くて旅する事がますます楽しくなります。新しい発見も何度も気になって会いたいような愛しい作品もあります。久しぶりにまん丸顔のクレーの絵「Senocio」を観たくなりましたし、懐かしい場所でのワインも楽しみたくなりました。

・・・つづく。
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写真

 ●上:ミュンスター聖堂

 ●中:スイス・バーゼル美術館

 ●下:筆者は時計台の右下にある住宅に住んでいた

 ●ステンドグラス:
   チューリッヒ・フラウミュンスター聖堂にある
   シャガールの作品

■ご感想はこちら > E-MAIL k-s-werk@msj.biglobe.ne.jp  佐々木久見子

1999.10.17
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