南東ドイツ編(2)
 
文と画像資料:佐々木久見子

 今回ももう少しドイツのフランケンからバイエルン地方を旅してみましょう。よく西洋は石の文化で東洋は木の文化などと言われますが、前にもお話したように意外とドイツでは木の文化も発達しているようです。大邸宅は今でもりっぱな木造平屋が良しとされ、その家や土地の広さにも驚かされます。ドイツはその国土のほとんどが平地ですから日本のように土地が高いわけでもありませんが、それでも木造というのは寒い北国のドイツでは豊かさ・温かさの象徴のように思われますし又、木製家具などもしっかりしていて何世代にもわたって受け継がれ、古い由緒ある建物などもかなり高い建物でも出来る限りは木造でしっかりと建てられています。

 ヨーロッパの屋根と言われる“アルプス山脈”を基礎に置くようなドイツは、特に南部は多くの森におおわれ山岳地帯のロッジのような家々が点在します。そこには古くからの木の文化が育っています。
 ドイツの彫刻というと皆さんはどのようなものを思い浮かべますか。あらゆる種類がある現代彫刻は別として、これもギリシャ・イタリアなどの石像よりも実は木彫に傑作といわれるものが多くあります。又、今でも多くの木彫作品が生まれています。そんな木彫作品と出会える旅がこれまたロマンチック街道からドイツ・アルプス地方というわけです。

 かのトーマス・マンが、最も心引かれる人物の一人にリーメンシュナイダーという彫刻家を挙げています。リーメンシュナイダーは1460年頃に生まれ、彫刻職人としてビュルツブルク(フランケン地方・ロマンチック街道の出発点)を中心に活躍しています。1505年には市参事会員になり富と名声をともに得て、彼の工房には職人があふれていたと言われています。1520年にはビュルツブルク市の市長に選ばれました。その当時は芸術家で市長になった人は必ずしも珍しくはなく、画家のアルプレヒト・アルトドルファ―もレーゲンスブルクの市長になっているし、ルーカス・クラナッハもワイマール市長になっています。芸術家や職人も商人や官吏とそれほど違わないものと見られていました。

●写真:リーメンシュナイダー「聖なる血の祭壇」左が全体、右が部分(最後の晩餐)

 そんな彼は、その作品に見られる内面性の深みによってマイン・フランケン地方の中世を終わらせた人物だと言われています。彼の作品もリンデ(西洋菩提樹)などを使う木彫がほとんどです。ビュルツブルクのマイン・フランケン博物館の“アダムとエヴァの立像”クレクリンゲンのヘルゴット教会にある“聖母マリア昇天の祭壇”これはつくられた時と全く同じ状況で、激動の宗教改革期に破壊を免れ今日まで伝えられている数少ない例です。デットヴァングのヴェーア教会にも、“十字架の下で嘆く聖母マリア”や“ヨハネの像”があり、ローテンブルクの聖ヤコブ教会には、リーメンシュナイダーの傑作“聖なる血の祭壇”があります。いずれの作品にも、人々の豊かな表情や木とは思えないような鮮やかな彫りに彼の並々ならぬ技術と才能を感じます。

 このような木彫文化は各地にも広がり現代でも多く見られます。前回お話したルートヴィヒ2世のお城“ノイシュバンシュタイン城”や“リンダーホーフ城”の近くドイツ・アルプス地方のオーバーアマガウという人口5000人ほどの小さな町は、三つのことで非常に有名な所です。その一つが、木彫が盛んな事で、全住民のうちほぼ10人に1人が本職の木彫師で、町のなかにも木彫の店がたくさんあります。私もなんとも愛くるしい天使の像が今でも忘れられず、次回にはなんとか手に入れたいと思っています。ちなみに後の二つは、絵本のように町中の家の壁に“赤ずきんちゃん”“ヘンゼルとグレーテル”などが描かれている事と町を挙げて10年ごと(次回は2000年)にキリスト受難劇を行う事です。

●写真:オーバーアマガウ 家の壁画

 この辺は高級リゾート地としても有名です。冬のオリンピック開催地ガルミッシュ・パルテンキルヘンは、今では日本ジャンプ陣が3本日の丸をあげた所といえば知っている人もいるでしょうか。そこから東南へ約20キロの所にある“森の真中”という意味のミッテンヴァルトは、今ではバイオリン作りの町として知られています。1684年に、バイオリンの名器を産する事で名高いイタリアのクレモナに修行に行っていたマティアス・クロッツが、故郷のこの町に帰って来てバイオリン作りを始めました。今でも多くの優れたバイオリン、チェロ、ツィター、ギターなどが生み出されています。

●写真:ガルミッシュ・パルテンキルヘンの町並み。背景の山はヴァクセンシュタインとツークシュピッツェ(2966m)

 ドイツの文化は森から生まれると言われる事があり、深い森をよく散策する人を見かけます。散策や散歩は哲学を生み、そこに生きずく木々からは多くの作品が生まれました。宗教などの違いはあってもその木製にあるぬくもりは、どこの国のものでも私たちを温かく迎えてくれるように思います。
つづく ・ ・ ・ 。

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掲載日:1999.2.25
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